精密成形のための金型設計

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近年のエンプラ(エンジニアリングプラスチック)成形に要求される課題といえば、低コスト、高精度、短納期でしょう。この中でも高精度に関しては、要因がたくさんあってそれを1つ1つクリアーしていかなければならず、実に大変なことなのです。そこで、以下に、成形の60〜80%を支配するといわれる金型設計について整理してみたいと思います。
■1.製品設計
プラスチックスで精度を確保するためには、製品設計の段階にさかのぼって検討することが必要です。いくら優れた金型(高精度に加工されたもの)、機械、材料を用いても、製品形状に無理があれば寸法精度の確保が非常に困難になります。つぎに、製品設計の際に検討しておくべきことを記します。
(1)均一な肉厚
成形の際の樹脂の収縮特性から考えて、如何に3次元的に均一に収縮させるかが重要となります。厚肉の部分は樹脂の収縮が大きく、「ヒケ」が発生するなどして寸法を不安定にする要因となります。また、樹脂は固化をともなって流動しますから、薄肉の部分は固化した層によって流動を阻害されやすく、ショートショットの原因となります。したがって、できる限り均一な肉厚にすること、使用する樹脂の流動特性を考慮した上で肉厚を設定することが必要です。たとえば、PPO樹脂の場合では2〜3mmが適当でしょう。このように、肉厚は薄くても問題が起き、厚いと成形サイクルにも直接効いてくるので肉厚の設定には注意が必要になります。
(冷却時間tは、次式のように製品の最大肉厚によって決定されます。) t={s2/(2)}・ln{(4/)・(m−w)/(e−w)}
s:製品の肉厚 :熱拡散率 m:溶融樹脂温度 w:金型温度 e:離型温度
(2)適切な樹脂の選択
 金型の精度は、できあがりの製品寸法をほぼ決定します。ここで、ほぼというのは成形条件のミスなどが原因で起こる不良を示唆しているのではなく、実は樹脂の収縮率にばらつきがあることを暗示せんがためです。ある時点で精度がクリアーできたとします。しかし、量産時のばらつきで規格外になってしまう。これは、そもそも樹脂の選定に問題があるのではないかと考えてみて欲しいのです。つまり、収縮率の絶対値が小さいほど安定しやすい、ということです。たとえば、収縮率が2/1000と20/1000の樹脂があってそのばらつきが同じ10%とすると、前者は、0.2/1000、後者は2/1000となり、収縮率の絶対値が寸法に大きな影響を及ぼすことが予想されます。また、成形時のフィラーの配向によって生じる収縮の異方性も重要です。なるべく異方性の少ないコンパウンドを選ぶことが必要です。ダイキャスト等の金属代替を狙うような高精度成形を行う場合には、特に検討すべきでしょう。近年、PPS(ポリフェニレンサルファイド)がこの分野で多く使われだしたのは、このような理由からです。成形の際の劣化が少なく、かつ成形後の環境変化に鈍感であることも大切です。
(3)抜き勾配
製品を変形させずに金型から離型させるために、適切な抜き勾配を設ける必要があります。前述のように、収縮の小さい樹脂を使用する場合が多いため、十分考慮すべきです。製品図面に指定される場合と、公差内でとる場合がありますが、大きめにとることが望ましいといえます。PPSの場合1〜2度の範囲が適当でしょう。さらに、リブ、ボスの根本、コーナー部にはR、Cを設けることも変形防止のために必要です。
(4)金型加工の容易さ
金型を加工するために、切削、研削、放電、磨きなどの工程を経るわけですが、精度の出やすい加工法を多く用いることができるような形状にすることも大切です。
■2.金型設計
いよいよ本題に入ります。金型設計を行う上で重要なことは次の点です。●金型寿命、材質
●ゲートの形状、位置、PL面
●突き出し方式
●温度分布
●ガスベント
●型の位置決め、剛性
●メンテナンス性
上記の項目に関して説明します。
(1)金型材質
金型の設計寿命により、キャビティ、ダイセット等の材質を決定します。特に、エンプラのフィラー入り材料を量産するためには、耐食、耐摩耗を十分考慮して選択しなければなりません。量産向けの金型材としてよく使われるものは、ダイス鋼(SKD11等)、ハイス(SKH51等)、ステンレス鋼(SUS440系等)などです。PPS等、特に耐食、耐摩耗に気をつけなければならない場合は、金型にTiN、TiC、DLC等のセラミック薄膜をコーティングすることもあります。この処理においては、PVD法(イオンプレーティング法)、CVD法(化学気相法)が用いられ、薄膜の密着性を高めるために高温処理を行います。したがって、型材の焼入れ時の熱処理過程に注意が必要です。不適切な処理の場合、この段階で寸法変化を生じ、設計通りの金型ができないことがあります。詳細に関しては、コーティングメーカーに確認するとよいでしょう。
(2)ゲート形状、PL面
ゲートの形状、位置に関しては、製品の仕様上制限されることが多いと思います。ゲートの点数に関しても、経済性の観点から制限を受けるので、一概に最適化を論ずることは困難です。それを強いて一般的にいえば、ゲートの位置はできるだけ厚肉の箇所に設け、ウェルドラインが重要箇所にかからないようにすることが必要です。一方、ゲートの形状は製品の充填過程に影響し、「ヒケ」「ソリ」問題の原因として大きく関与します。このため、最近の傾向として、CAEにより流動解析を行い決定する手法が多くとられています。PL面に関しては、PL面をはさんで重要寸法が存在すると、その部分は不安定にならざるを得ません。
なるべく可動または固定側、スライド部単独で寸法が決まるようにすべきです。
(3)突き出し方式
突き出しに関しては、変形のない離型性の確保が第一です。エジェクターピン方式のほか、スリーブ方式、ストリッパー方式、エア方式など製品形状に応じて選択しましょう。不具合が生じた場合、離型不良の箇所に突き出しピンを追加できる構造にしておくと良いと思います。
(4)温度分布
金型の温度分布制御は、非常に大切です。多数個取りの場合、充填バランスに大きく影響するため、キャビティ間の温度差を小さくするような加熱方法を選びましょう。特に、エンプラ系の材料の場合、金型温度が高温になる傾向が強いため、特に注意すべきです。金型の温度制御方式には大きく2つあります。ヒーター方式と媒体の循環方式です。前者はヒーターを制御するセンサーの位置、ヒーターの位置・容量、後者は温調機の能力に加え、媒体の流量、種類、流路がポイントになります。温度分布の制御には、後者のほうが優れているでしょう。製品が厚肉の部分、金型の熱容量が大きい箇所などは、熱がこもりやすいため、必ず温度制御を行いましょう。その部分だけ高熱伝導率の金型材質を用いることも多くあります。リサイクル、コストダウンの点から最近特に注目されているホットランナーの場合、多数個取りの充填バランスをとることが寸法精度を出すためには重要です。キャビティーごとにホットチップの温度を変えるなど、システムのハードでバランスをとることも可能ですが、量産時の成形安定性を考えると、キャビティー間の温度差をできる限り小さくすることがポイントになります。
(5)ガスベント
ガスベントは、キャビティに直接関係していないため軽視されがちですが、量産時の安定化にもっとも重要な項目の一つです。つまり、射出前にキャビティ内に存在するエアおよび溶融した樹脂から発生するガス成分を、効果的に逃がしてやることが必要です。これが不完全だと、外観不良(ショート、ガス焼け)が発生すると共に、金型内での流動状態が設計と異なるため、寸法精度に大きく影響することになります。ベントは流動の末端、ウェルドの発生位置等に設けることが基本ですが、ランナーでも十分に抜けるようにすると良いと思います。つまり、少しでも多く逃げ道をつけてやることが大切です。ベントの深さ等に関しては、樹脂の流動性によって異なります。たとえば、流動性の良いPPSの場合、ベントランド深さは0.003〜0.010mm、比較的流動性の悪いPCで0.005〜0.020mmが標準でしょう。ただし、添加物によって異なります。材料メーカーの技術資料を参考にすると良いでしょう。
(6)型の位置決め、剛性
金型の固定、可動の位置決めをガイドピンのみに頼るケースがありますが、ガイドピンでの整合は0.03〜0.07mm程度のため、高精度は期待できません。したがって、インロー、テーパーピンなどの併用により位置決めを行うべきです。ただし、いずれにしても、異物、樹脂カスの付着により合わせが甘くなることがありますので、設計の際に対策をとっておくと良いでしょう。金型は、射出成形の充填過程で樹脂圧によって変形を生じます。この変形の度合によっては、設計通りの製品寸法がでないことや、バリが発生するケースがあります。こうした問題は、金型の剛性不足に起因しており、型厚不足やサポートピラーの不適切などが原因となっています。ですから、これを防ぐために、事前に強度計算を行い設計に反映させるべきです。コンピュータによるシミュレーションを行うケースもあります。  剛性の高い金型を用いると、成形条件が広く、安定した製品が得やすくなります。ただし、必要以上に剛性が高いと、成形機が1ランク大きくなるなど、製造コストに問題が生じかねません。
(7)メンテナンス性
量産時には、定期的にメンテナンスを行う必要があります。キャビティやガスベントに付着している、樹脂から発生したモールドデポジットを除去したり、破損した部分の入れ子を入れ替えたりするためです。この際に、再現良く(つまり作業者等によらず)型組みできるような構造にしておくことが大切です。キャビティの割り方、入れ子の合わせ方などに工夫が必要となります。
以上、精密成形のための金型設計という内容で、簡単にふりかえってみました。最近のエンプラに要求される、m台の厳しい寸法精度をクリアーするためには、製品、金型の設計に始まり、樹脂の選択、金型の加工精度、メンテナンス技術、製品の計測技術、成形環境の整備などを突き詰める必要があります。また、問題が生じた場合には、本質的な原因を見い出し、解決する姿勢が望まれます。さらに、こうして得られた貴重なデータをできる限り数値化、標準化し、次の開発テーマにフィードバックしていくことで、短納期の要求にも応えられるためのノウハウを蓄積できるのです。

最後に、「良い」金型とは、次のような条件を備えたものといえるのではないでしょうか。
a)精度が出しやすい(条件幅が広い)
b)ばらつきが小さい
c)長寿命
d)連続成形性が良い
e)生産性が良い(ハイサイクル)
f)メンテナンスが容易


精密成形とは
精密成形とはどの程度のものをいうのでしょうか。通常のエンプラの精密成形を考えると、寸法公差が1〜数十mのレベル、または公差/製品寸法=0.1%程度のものと考えればよいと思います。一般的な金属ダイキャストの精度と理解してよいでしょう。  このレベルの精度を確保するために金型の設計が重要であることは、この分野に携わる方であれば身をもって理解されていることと思います。
◇本資料に掲載したデータ及び記述は、製品の設計の参考です。
◇本資料に記載の内容は信頼できるテストと情報に基づいていますが、データ及び記述を絶対的なものと見なさないでください。
◇本樹脂を製品に適用する場合は、その設計の妥当性を必ず別途確認してください。
◇本資料は記載内容の適用結果を保証するものではありません。
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